生命環境科学系の概要
東京大学 大学院総合文化研究科の広域科学専攻にある生命環境科学系は、学問の壁を越えた新しい生命科学を探求するユニークな研究組織です。従来の理系・文系といった枠にとらわれず、分子レベルのミクロな世界から人間全体まで、生命のあらゆる側面を包括的に研究しています。統合的な生命科学の探究を通じて、「生命の基盤」と、生命活動が生み出す「心」と「身体」の豊かな営みを解き明かし、その成果を社会へ還元することを目指しています。

5つの講座と3つのグループ
生命環境科学系は、以下の5つの大講座から構成されており、専門分野の近い3つのグループ(基礎生命科学、身体運動科学、認知行動科学)が連携し、学際的な教育・研究を推進しています。
- 環境応答論(基礎生命科学グループ)
- 生命情報学(基礎生命科学グループ)
- 生命機能論(基礎生命科学グループ)
- 運動適応科学(身体運動科学グループ)
- 認知行動科学(身体運動科学グループ・認知行動科学グループ)
多彩な研究テーマと学際的なアプローチ
所属する教員の研究分野は非常に多岐にわたります。細胞生物学や生化学、創薬といったミクロな研究から、スポーツ科学、心理学、教育学といった人間全体を扱う分野まで、多岐にわたる専門家が集結しています。研究対象も、DNAやタンパク質といった生命の最小単位から、組織、器官、そして人間の身体の機能や心理にまで及びます。各研究者がそれぞれの専門分野を深く掘り下げつつも、互いに交流することで、分野横断的な視点を育み、新しい生命科学の構築を目指しています。
目指す人材像
生命環境科学系では、以下の資質を持つ人材を育成することを目指しています。
- 生命科学の体系的かつ最先端の知識を持つ研究者・技術者
- 生命、生活、人生、活動性、活力、健康などを深く理解し、社会に貢献できる研究者や生涯学習指導者
- 脳・神経や精神のメカニズムを探求し、臨床分野でも活躍できる研究者・技術者
生命環境科学系の3つのグループ
基礎生命科学グループ
基礎生命科学グループでは、生命の多様性と階層性が織りなす原理を「知り」、それを「共有」することで、今までにない新しい生命感を「創る」研究と教育を行っています。具体的には、教員が独自の視点に立ってヒトを含む動物、植物、微生物、生体分子などを研究対象とし、生命現象の普遍的な機構解明を目指しています。例えば、DNA・RNA・タンパク質などの生体物質の構造と機能、それらがつくる情報ネットワークの解析、情報を統合してできる生命の基本単位としての細胞の構造と機能の解析、細胞のネットワークが作る組織や動植物個体の発生、生物間の相互作用の解析、さらには、さまざまな知見を生かした新たな素材の開発や創薬など、多様な研究を展開しています。
身体運動科学グループ
身体運動科学グループでは、「運動」を第一のキーワードに研究を進めています。その研究の方向性は、生理学、生化学、栄養学といった体内の代謝に目を向けたものから、運動にかかわる神経系・筋肉系や心の働きの解析、バイオメカニクスのような外からの運動や動作、さらに医学的な観点からの運動の解析まで極めて広い範囲にわたります。これらの研究を通じて、競技スポーツなどにおける運動能力の向上や、運動による健康増進効果に関する新しい知見の発見を行い、その結果を通じて社会に貢献することを目指しています。
認知行動科学グループ
認知行動科学グループでは、個体が環境を認知し適応的に行動するときの「こころ」の機能と仕組みを実証的に解明する研究を推進しています。性格特性・病理傾向によって異なる環境を認知する枠組みや、それに対する適切な介入の仕方について、調査・実験と統計的解析手法を用いて解明しています。また、知覚や認知の基盤を数理モデルから解明する研究、記憶や意思決定、時間知覚などの高次機能を脳機能イメージングから解明する研究などを最新の測定装置を用いて進めています。さらに、動物のコミュニケーション行動の進化と神経機構に基づいて、言語と情動の起源を探る研究も行われています。
グループごとに専門分野の研究を深めるだけでなく、グループや講座を越えた相互の協力や連携を通じて、分野横断的で統合的な生命科学の知識や研究戦略を育み、生命の基盤や、生命活動が作る「こころ」と「からだ」のいとなみを明らかにしたり、生命科学分野に技術革新をもたらすことを目指しています。
基幹講座の教育内容
生命環境科学系でどのような研究教育が行われているかを、各大講座の主な研究内容を軸に簡単に紹介します。
環境応答論大講座
細胞あるいは生物個体とその周囲の環境を一体のものとして見ることにより、個体発生における細胞分化や成熟後の環境変化を緩衝するホメオスタシス、あるいは植物の環境適応のような、環境の変化とこれに対する応答の複雑なネットワークの総合的研究。
生命情報学大講座
DNAの構造、ゲノム解析、脳などの細胞内シグナル伝達機構、生体膜の動的構造、細胞運動と細胞分裂のメカニズム、胚発生における肺葉や器官の誘導、筋及び神経の発生等の先端的研究。
生命機能論大講座
生体高分子の高次構造形成、機能・構造相関、機能性高分子の設計、高度に組織化された生体高分子相互作用による生命機能の調節・維持、細胞集合・組織形成による高次機能の獲得など生命個体内部の諸構造の機能、構造形成・維持の総合的研究。
運動適応科学大講座
細胞や組織及びヒトを含む個体の運動の成り立ちを研究対象とする科学手法、細胞分子生物学的手法、あるいは、分子レベル・細胞レベルでの運動機能の解析、力学的動作学的手法、運動生理学的手法、細胞分子生物学的手法あるいは、コンピューターモデリングや先端医学の手法による個体の運動の研究。
認知行動科学大講座
環境を認知し、それにもとづいて適応的に行動するメカニズムの研究、特に神経活動、個体行動、社会行動、スポーツ等を対象としたバイオメカニクス・トレーニング科学、心理物理学、脳神経科学、認知科学、行動生物学、臨床心理学、スポーツ行動学などの学際的研究。本大講座には理化学研究所の客員教員も参加しています。
